策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす

そうして、いつも通り心を込めた接客をしていたが、翌日には問い合わせの電話が鳴る頻度が多くなり、二日後には来店した客からも『変な噂が立っているようだけど大丈夫か』と心配の声が上がり始めた。

まったくの偽りの情報が、さも真実かのように拡散されていく様に、千鶴は身震いする。

誹謗中傷にあたるレビューのいくつかは削除してもらえたが全てのサイトではないし、個人のSNSでの拡散はどうしても止められない。

ひだかのホームページのトップにも、ネット上の騒動については事実無根であり、相応の対応をすると記載した文書を載せたが、それもどこまで効果があるのかわからない。

幸い店に来てくれる常連客はみんなSNSの情報を鵜呑みにしないでくれているが、このままでは誤った情報のせいで、ひだかが培ってきた信頼が崩れてしまうのではという不安に苛まれた。

長年店をやってきて、こんな事態は初めての経験のため両親も頭を抱えており、早めに相談した方がいいかもしれないと、兄が信頼できる弁護士を探し始めた。

そんな矢先、ランチタイムの営業を終えたばかりの店に再び電話の音が響く。

千鶴はまた食品偽装の問い合わせかと一瞬身体を竦ませたが、気持ちを立て直すためにふぅっと息を吐いてから受話器を取り、意識的に口角を上げて笑顔を作った。

「はい、ひだかでございます」
『その声は千鶴だね、僕がわかるかな』

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