策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす
耳にしたフランス語の響きに、笑顔が一瞬にして凍りつき、身体がぎゅっと竦むのを感じた。
『久しぶりだね。あぁ、フランス語はダメなんだっけ』
エリックはフランス語から英語に切り替えて、千鶴に伝わるようにゆっくりと話した。
『久しぶり。僕がわかるかな?』
『……エリック=オベール様ですよね。どういったご用件でしょうか?』
『どうしても君に聞いてもらいたい話があってね。ネットで噂になってる件といえば、わかってもらえるか?』
息をのむ気配を察したのか、電話の向こうのエリックは楽しそうに笑った。
『父が憤慨しているんだ。君の夫に最低な店をアテンドされたとね』
『そんな……ネットのレビューは事実無根です』
『真実がどうだろうと、〝食品偽装している店だと噂されている〟のが問題なんだ』
各サイトやSNSの運営に対し、事実無根の誹謗中傷を載せているアカウントの停止を求めているが、思うように進んでいない。
ダニエルの目にも止まっていたと知り、千鶴は蒼白になった。
『個人のSNSの投稿を全部削除するなんて、一般人には無理だろう? でも、僕ならなんとかできる』
『……え?』
『まぁ言葉で言ったところで信じられないだろうから、あるひとつのサイトの悪いレビューを全部消しておいたよ。店の問い合わせページに詳細を送っておいた。すべてのサイトやSNSの悪評を消したければ、誰にも言わず、明日の二十一時、僕の指定した場所に来い』