策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす

『ま、待ってください! そんな一方的なお約束は――』
『このまま悪質な噂を放置して客の信頼を裏切れば、店はどうなる?』

脅迫めいた言葉に口を噤むと、電話口の向こうでエリックが声を上げて笑った。

『僕は優しいからね。レビューを消すだけじゃなく、父にも執り成してやる。今後も〝僕と仲良しの千鶴の店〟を贔屓にしてやってほしいってね。君が決めたらいい。店だけじゃない、ニシザワの今後の外交官としてのキャリアもね』
『伊織さんの外交官としてのキャリア?』
『今フランスと日本の共同で行われているプロジェクトは、僕がニシザワからの依頼でリュカと連絡を取ってやったことで実現したんだ。君が僕を怒らせるのなら、僕はリュカに手を引くように助言してしまうかもしれないなぁ』

楽しそうに言うと、ブツンと電話は切れた。

呆然としたまま店のパソコンで問い合わせページを確認すると、一件の未読メールがある。ご丁寧にURLまで添付されたそのメールに目を通し、千鶴は自分の身体をぎゅっと抱きしめた。

「千鶴? また例の件のお問い合わせだったの? 英語で話してたみたいだけど」

後ろから母に声を掛けられ、千鶴は慌ててパソコンを閉じた。

「ううん、大丈夫。別の簡単な問い合わせだったから」
「そう。それにしても、早く解決するといいわね」
「……うん」

片付けに戻る母の背中を見ながら、小さくため息をつく。もう一度パソコンを開き、エリックからのメールを読み返した。

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