策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす
千鶴が傷つけば、千鶴以上に心を痛める人がいる。それに気づいたのは、伊織が教えてくれたからだ。
けれど、エリックの話を無視はできない。
彼の言う通り、真実がどうであれ、こういったレビューが広まるだけで評判は落ちていくし、懇意にしてくれている取引先やお客様にも迷惑がかかる。
長年かけて積み上げてきた信頼も、崩れるときは一瞬だ。そして、それをもう一度築こうと思うと、今まで以上の時間がかかるに違いない。
エリックがサイトのレビューを一括して消してみせたのは、きっと千鶴が迷うとわかっていたからだ。実際に、なかなか自分たちでは削除させられなかったサイトのレビューが消えたことで、千鶴の心は揺れ動いている。
『このまま悪質なレビューを放置して客の信頼を裏切れば、店はどうなる?』
エリックの意地の悪い質問が耳の奥でこだまする。
ひだかは祖父や両親が大切に守ってきた店であり、千鶴にとっても大切な場所だ。誹謗中傷なんかで失いたくない。
さらに伊織の仕事にまで迷惑がかかるとなると、エリックからの話をなかったことになんてできそうにない。
(伊織さん、ごめんなさい)
千鶴はある決意を秘め、唇をぎゅっと引き結んだ。