旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 こんなに素敵な人が自分と結婚したいと思ってくれている、と浮かれる気持ちにはとてもなれない。
 むしろ訝しんでしまう。体制的に若くして結婚する人が多いと言われる警察官で、申し分ないステータスとルックスを兼ね備えたエリートが、これまで独身を貫いてきたのはどうしてなんだろう、と。

 私自身、自分の結婚に関しては、ある過去のせいでかなり後ろ向きだ。
 ちくりと胸の奥が痛む。それを掻き消すために、私は深く息を吸い込んだ。

 温かな日差しが目に眩しい。歩きながら、先ほど四人で食事を囲んでいた一室が見えた。さっきは向こうからここを見ていたのか、と少し不思議な気分になる。
 すぐ傍の白梅の枝から、花びらが一枚はらりと零れ落ちた。梅の季節も終盤だ。この庭の梅も、そろそろ見納めなのかもしれない。そう思うと、零れたその花びらが一層鮮やかに目に映り込んでくる。

 足元に神経を集中させ、慎重に草履の足を動かす。そうやって相手の隣をつかず離れず歩くさなか、そっと視線を下げて振袖の裾を見下ろした。
 今日の振袖は、母がわざわざ今日のためにおろした一着だ。『こういうのは第一印象がすべてよ!』と着付けの場で鼻息を荒らげていた母は、すでに私の花嫁姿でも見えているのかと疑いたくなるくらいテンションが高かった。
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