旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 ああ見えて、母は私を気遣ってくれている。
 それは分かっている。母と仲の良い叔父も、私の、というよりは母の気持ちを汲んでこのお見合い話を持ってきたのかもしれない。

 三年前、結婚直前に破談を経験している私を、両親も叔父も相当に心配している。

(……結婚だけなのかな。お母さんを安心させてあげられる方法って)

 歩きながら、ふとそんなことを思う。
 仮にこのお見合いがうまくまとまったとして、叔父の身内である以上、私がこの人にぞんざいに扱われる心配はおそらくない。頭ではそう分かっていても、過去に味わった苦い経験のせいで、私はいつまで経っても不安を拭いきれない。

 たとえ相手が断れない縁談だったとしても、あるいは相手に得しかない結婚だったとしても、裏切られるときは裏切られる。
 そのことを、私は身をもって知ってしまっている。

「……あの」

 続いていた沈黙を、私は勇気を出して破った。

「先ほどは失礼しました。母も叔父も、ふたりだけでどんどん盛り上がってしまって……ご気分を害していらっしゃらないと良いのですが」

 絞り出した声は自然と尻すぼみになる。
 足を止めた私に合わせて立ち止まった能見さんは、わずかに間を置いてから口を開いた。
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