旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
「いや。具合はどうだ? さっきまでひどい熱だった」

 もう大丈夫です、という嘘は咄嗟には返せなかった。
 言い淀んでいるうち、上体を起こした和永さんが私の額に指を置いてくる。迷いのない動きに見え、堪らずびくりと震える。
 抱き上げてもらった後だというのに、額に触れられただけでこんな反応をするなんて、もはや失礼な気すらする。けれどこういう心配自体、私が離婚を切り出さなかったら、そもそもされる機会はなかったはずだ。

 どうすればいいんだ、と途方に暮れてしまう。
 好きでいることを許してほしい。でも、仮にそれを受け入れてもらえたとしたら、私はもっと欲を出してしまうだろう。次は〝私のことも好きになって〟、その次は〝もっと愛して〟――そんなふうに我儘が膨れ上がっていくまで、おそらく時間はかからない。それでは駄目なのに。
 ぎゅ、と胸が締めつけられる。息を浅くした私の傍で、私の内心を知る由もない和永さんはさらに続ける。

「顔色が悪いと朝から思ってた。俺が昨日、連れ回してしまったせいかも」
「っ、そんなことはッ……」

 声を張り上げた瞬間、くらりと眩暈に視界が揺れた。
 今の言葉が離れなくなる。今朝は恥ずかしくてほとんど顔を合わせられなかった。不調の自覚もまだなかった。なのに、私さえ気づいていなかった異変に気づいてくれていたなんて。
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