旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
「薬を持ってくる。君が寝てる間に買ってきた」

 彼には低すぎる椅子から立ち上がった和永さんが、私に背を向けて寝室を去っていく。
 その背中をじっと見つめる。すぐ戻ってきてくれると分かっていても寂しくて、胸の奥がひりひりしてくる。
 たった数十秒離れていただけなのに、律儀にドアをノックしてから寝室に入ってきた彼の手元には、ビニール袋が提がっていた。

「ええと……これとこれ、あとはこれと」

 ベッドの傍まで戻った和永さんが、袋の中のものをひとつひとつ並べてくれる。
 総合かぜ薬が三箱、鎮痛剤が四箱、他にも胃腸薬やら漢方薬やら、袋からは何箱も薬が出てきて、え、と私は思わず声を漏らしてしまう。

「多くないですか?」
「ああ。どれが合うか分からなかったから、棚から手当たり次第に」

 手当たり次第、という言葉につい頬が緩んだ。
 薬はそういうふうに買うものではない気がする。それでなくても、我が家にも薬箱はある。リビングに置いてあるそれの存在を、和永さんだって知っているはずだ。指を切ったときに自分で使っていたのだから。

(どれだけ焦ってたの……)

 疲れて帰ってきただろうあなたが、私のためだけにまた外に出て、私のためだけに薬を選んで、……私のためだけに。
 そう思ったら確かに嬉しかったのに、溢れたのは笑みではなかった。
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