旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 熱に冒された頬を伝った、同じくらい熱い涙が、ベッドの上に座る私の手の甲をぽたりと濡らす。

「っ、どうした?」
「……いいえ。嬉しいなあって、思って……」

 ぽろぽろと涙を落としながら、心底ほっとしたような声が零れた。
 離婚届を渡した相手にこんなふうにほっとしてどうするの、と自分自身に呆れてしまう。

 どんどん好きになっていく。自分の意思でこの感情を止められる気がしない。
 これ以上好きになってもつらいだけだとずっと考えてきたけれど、それって本当なんだっけ――自分にとって都合のいいほうにばかり考えがなびいて、胸の奥が苦しくなる。

 私の涙が生理的なものだと納得したのか、和永さんは私の空腹を気にしてゼリーを持ってきてくれたり、薬を飲むための水を持ってきてくれたりと、至れり尽くせりだった。
 お礼を言いつつゼリーをひと口啜って、それから山ほどの薬の箱から一種類を選んで、錠剤をふた粒口内に放り込む。それを水で喉の奥に流し込んだ後、ほ、と吐息が漏れた。

 安堵の滲むそれが口から零れたそのとき、あなたの長い指が髪に触れた。
 当たり前のように触れられたからか、私も当たり前のように受け入れてしまった。拒むことも忘れ、私は長い指の生む心地好さに目を細める。
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