旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
「明日までは休んだほうがいい。さっき君の職場に電話をかけてみたんだが繋がらなかった、……考えてみれば夜中に繋がるわけがないな」
「……職場に、かけてくれたんですか?」

 呆然と訊き返すと、ああ、と平然と声が返る。
 本当になんでもしてくれていたのだと思い至って、やはり感謝よりも申し訳ない気持ちが先に出た。

「すみません。いろいろとご迷惑を」
「迷惑なんかじゃない。明日は病院にひとりで行けそうか? いや行けるに決まってるよな、子供扱いしたかったわけでは決して」

 喋り続けるあなたを、涙目のままぼうっと見つめる。
 私たちが一年分の結婚生活で交わした言葉全部を、あなたはきっと、この一週間あまりで完全に追い越せるくらいに喋っている。

「……こうやって」

 掠れた声が喉を滑り落ちる。
 訊かないほうがいいんじゃないのか。今こんな弱っているときに、はっきりした答えを求めるのは良くないんじゃないのか。
 頭の奥で警鐘が響いている。それなのに、あなたの指があまりに優しく私の髪を撫でるから、あなたから距離を取るための警鐘なんてもうどうでも良くなってしまう。

 髪に触れる指に、私はそっと手を重ねる。
 指に指が触れた瞬間、あなたの指がびくりと跳ねた。

「こうやって私のためにいろいろしてくれるのも、挽回したいから、ですか?」
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