旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 離婚を避けたいから、私に離婚を諦めてほしいから、こうやって今までとは違う優しさを見せてくれているのか……とは訊けなかった。
 頭の芯がぼうっとして、考えた通りに唇が動いてくれるとは思えなかったからだ。
 訊いてから、やっぱり訊かないほうが良かったかもと後悔が過ぎる。目を合わせていられなくなった私は深く俯いて、けれど自分から伸ばした指を引っ込めようとした途端、あなたの指が私の手を握り締めた。

 指に指が絡む。手を握ったまま、あなたの指が私の頬を掠める。
 発熱とは違う熱さに囚われた身体が、とくりと小さく跳ねた。

「いや。俺がしたいからしてるだけだ」

 ――君が心配で堪らなくて、傍にいたいからこうしてる。

 首を横に振りながら告げるあなたの声が、優しく耳に溶ける。
 握られた自分の指がひときわ熱くなった気がして、私は静かに息を震わせた。

(……どうして)

 どうしてそんなことを言うんだろう。
 昨日の夜、埠頭でキスをしかけた理由もまだ教えてもらっていない。あんなこと、普通は好きでもない相手にはしない。

 けれどあなたは『愛は期待するな』という言葉を――私たちが夫婦であり続けるための条件であるあの言葉を、一度たりとも撤回していない。
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