旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
「なに?」
「あ、ええと……お花屋さん? にご用事だったんですか?」
訝しそうに尋ねられ、返事はどうしてもしどろもどろになってしまう。
ちらりと花屋の看板に目を向けた後、板戸さんは「ああ」と気怠げに声をあげた。
「ここで働いてる人と約束してるんで、今日」
それじゃ、とぺこりと頭を下げ、今度こそ板戸さんは私に背を向ける。
店内に入っていく彼女の背中はすぐに見えなくなり、私はといえば、しばらくその場で呆然と立ち尽くしてしまう。ドアからガラス張りの窓へゆっくりと視線を動かし、いつもと同じようにそこに並ぶ胡蝶蘭が目に留まってから、私はようやく我に返った。
慌てて窓から目を逸らす。もしかしたら店内にいるかもしれないあの店員さんを見かけるのが怖かった。
途端に、名前も知らない、顔さえうろ覚えでしかないあの店員さんのことが頭から離れなくなる。
和永さんと同年代に見えたけれど、あの人って何歳くらいなんだろう。
綺麗な人だった。私にはないものを持っている、明るくて、快活そうな。
(……嫌だな)
今抱いている感情は、湿度が高くて気持ち悪い。
あの店員さんはなにも悪いことをしていないのに、燻らせなくていいものを勝手に燻らせている自分が、心の底から嫌になる。
「あ、ええと……お花屋さん? にご用事だったんですか?」
訝しそうに尋ねられ、返事はどうしてもしどろもどろになってしまう。
ちらりと花屋の看板に目を向けた後、板戸さんは「ああ」と気怠げに声をあげた。
「ここで働いてる人と約束してるんで、今日」
それじゃ、とぺこりと頭を下げ、今度こそ板戸さんは私に背を向ける。
店内に入っていく彼女の背中はすぐに見えなくなり、私はといえば、しばらくその場で呆然と立ち尽くしてしまう。ドアからガラス張りの窓へゆっくりと視線を動かし、いつもと同じようにそこに並ぶ胡蝶蘭が目に留まってから、私はようやく我に返った。
慌てて窓から目を逸らす。もしかしたら店内にいるかもしれないあの店員さんを見かけるのが怖かった。
途端に、名前も知らない、顔さえうろ覚えでしかないあの店員さんのことが頭から離れなくなる。
和永さんと同年代に見えたけれど、あの人って何歳くらいなんだろう。
綺麗な人だった。私にはないものを持っている、明るくて、快活そうな。
(……嫌だな)
今抱いている感情は、湿度が高くて気持ち悪い。
あの店員さんはなにも悪いことをしていないのに、燻らせなくていいものを勝手に燻らせている自分が、心の底から嫌になる。