旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 副院長と板戸さんに打ち明けたばかりの不気味な一連が、ひとりになった途端に舞い戻ってきて、ひ、と声が漏れてしまった。

 恐怖に包まれながらも、なんとかおそるおそる振り返る。
 けれどその先に、外灯に薄く照らされた夫の顔を認め、私は安堵の吐息を落とした。

「あ……和永さん。おかえりなさ、」
「誰だ。今の」

 ほっとしたのも束の間、刺すような声で訊かれ、私は声を失ってしまう。
 間を置かず、半端に持ち上がった私の手首をあなたの指が捕らえた。酔ってふらついた私の腕を掴んで支えてくれたあの夜よりも、ずっと強い力で握られている気がして、あ、これは別の意味でピンチなのかも、と瞬きすら忘れて思う。

「あ、あの、」

 なんとか説明をしなければと口を開いて、それなのにまともな声は少しも出てくれず、結局それきりだ。
 マンションの出入り口もエレベーターの中も共用の廊下も、あなたは私の手を放すことなくまっすぐ玄関まで辿り着く。そして片手で難なく解錠を済ませ、私を玄関に押し込んだ。

 内側からドアに押しつけられる。
 きつく掴まれた手首から伝う緩やかな痛みに支配されたきり、私の身体は抵抗ひとつ挟めず、あなたにされるがままだ。
 怖いかもしれない、と、暗い玄関の中でようやく思った。
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