旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
「答えろ。誰だ、さっきの男」
「つ、勤め先のドクター、です」
「いつも送ってもらってるのか」
「違います!」

 震えていた自分の声が、悲鳴じみたそれに変わる。
 疑われているのだと理解するには十分だった。やましいことはなにもない、だから全部正直に話せばいい――確かにそう思うのに、あなたに疑われたショックは想像よりも遥かに深く私を苛む。

「今日はたまたま、……私だけじゃないです、さっきまでもうひとり同僚が一緒でした、ただ私のほうが家が遠かったから」

 暗がりの中にありながらも、冷めた目で見下ろされていると分かる。そのせいで声が露骨に震えてしまう。

(どうしてそんな目で見るの……)

 ぎゅ、と胸が締めつけられる。
 痛むそこが悲しみで満たされ、心ごと冷えていく。直前まで震えてまともに話せなかったのが嘘のように、今度は低く落ち着いた声が喉を通った。

「なんでそんなに怒ってるんですか。放してください、痛いです」

 暗がりの中でも、あなたが目を瞠って眉をひそめたのが分かった。
 まだ手を放してはもらえない。空いた手指を伸ばして玄関のライトをつけると、あなたは途端に気まずそうに私から目を逸らした。
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