旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
「そんなことないですよ。私がいてもいなくても、あの人はきっと困ったりしないから」

 謙遜にしては卑屈が過ぎる。
 その自覚は確かにあったのに、結局は最後まで声に乗せてしまった。

『あの人はきっと困ったりしない』
『私がいてもいなくても』

 自分が吐いた言葉にこそダメージを受ける。
 喉の奥に溜まって澱んだダメージは、そのまま息苦しさに変わる。

 それって本当?
 だって、私をどうでもいいと思ってる人があんなことする?

 しない気がする。一昨日もそうだ。しばらく帰れなかったくらい多忙を極めていたはずなのに、ああして帰ってきてくれて、あれは私と話をしたいと考えてくれていたからなのでは。

 前にも似たことを考えた。
 私は、私が思っている以上に和永さんから大切にされているのでは、と。

 今にも止まりそうになる足をなんとか動かし、ようやく地下鉄の出入り口に辿り着く。
 ここでお別れかな、と思う。板戸さん本人は否定したけれど、やはり私を心配して送ってくれたのだろうとお礼を伝えようとした矢先、予想に反して板戸さんは「は?」と目を見開いてみせた。
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