旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 仕方なくスタッフさんと板戸さんに着いていく。
 先客がひとり座る四人席に案内され、座っていたその人が顔を上げたと同時、私は文字通りぴしりと固まった。

「え?」

 よ、と板戸さんにひらひら手を振ってみせたのは、見覚えのある――私が一方的に知っている人物だった。
 ショートヘアの、快活そうな、あの花屋の店員さんだ。

「姉です」
「あっ、え、そうなんですか、お姉さん、へぇ、ええと、」

 板戸さんから手短すぎる紹介を受け、私はといえば、降って湧いた困惑と緊張に激しく言葉を乱してしまう。
 どうしてこの人がここにいる。それに、なぜ板戸さんはこの人の前に私を連れてきたのか。浮かんでは消える疑問が微かな頭痛を引き起こし、私は堪らず額を押さえた。

「こないだ能見さんの話、したんです。そしたら『多分その人知ってる奴の奥さんだわ』って話になって、んで『今修羅場らしいよ』って言ったら『連れてきて』って」

 板戸さんの説明は、相も変わらず調子が軽い。
 修羅場ではないと何度言えば、とうっかり声を荒らげかけたものの、このような店の中でさすがにそれは、というなけなしの良識が勝った。
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