旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 グラスのオレンジジュースをひと息に喉に流し入れた彼女の顔が、不意に恋する乙女のそれに見えて、私の目はつい榛奈さんの頬に釘づけになってしまう。
 勧められるまま、意識を目の前のプレートに戻した。止まってしまっていた食事を再開しつつ、私は榛奈さんの話の続きを待つ。

「前触れとか全然なかったし、能見の差し金だとしか思えなくてさ。『おい織田原さんになんか余計なこと言ったろお前』って電話でギチギチに詰めちゃった」
「ぎ、ギチギチに?」
「そう、ギチギチに」

 思わずフォークを止めて尋ね返しながら、和永さんを『お前』と呼んで詰めることのできる女の人がこの世にいるんだ、と遅れて感動がやってくる。

 同級生ってすごいな、いや同級生だからというよりは榛奈さんがすごいだけかもしれない――目を回しつつも「ごちそうさまでした」と空になったプレートの前で手を合わせていると、榛奈さんは申し訳なさそうにまた眉尻を下げてみせた。

「ごめんね。昨日は完全に冷静さを失ってて……同級生の女が旦那に電話かけてきてるとか、普通に嫌だよね」
「あっ、いえ。そんなことは」
「嘘。気にしてる。今そういう顔してるよ、薫子さん」

 微笑む榛奈さんの瞳にまっすぐ射抜かれ、虚を突かれた。
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