旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 和永さんにとって大切なのは彼の仕事だけ。
 他ならぬ彼自身が、初対面の日、釘を刺すようにして私に告げた言葉だ。

 それなのに、どうして今になってそんなことを、それも私以外の人に零してしまうんだ。

 私はこの一年で心身に染みついている。
 あなたに期待をしてはいけないと、強く強く縛られて……それなのに、どうしてあなたは、そんな。

「……離婚」
「え?」
「しようと思ってたんです。愛のない夫婦生活なんてやっぱり私には無理かもって、……あの人にだけ約束を守らせ続けて、こういうの良くないって、でも」

 それきり途絶えさせてしまった言葉の続きを、どうしても紡げなくなる。
 初対面の榛奈さんにどこまで伝えていいか分からないし、こんな話を聞かせたところで困らせるだけだ。どろどろの感情が巡る中、喉の奥がちりりと痛む。次に声を出したら、その瞬間に涙が零れてしまいそうだ。

「……あのさ」

 痛む喉を咄嗟に指で押さえたそのとき、遠慮がちな声が対面から聞こえてきた。

「あたし、三年ずっと好きだけど、織田原さんのことなんにも分かんないんだよね。知り合ってからだとかれこれ十年くらい経つのに、分かってることのほうが少なくて」
「あ……」
「でも、人の気持ちってそういうものみたいなとこ、あるじゃない?」
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