旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 目を見て話を聞くことはできなかった。
 空のグラスの縁をなぞる榛奈さんの指先を、私はただじっと凝視する。

「簡単に理解できるものでもないし、一緒にいる時間が長ければそれでいいってわけでもないし、頑張って正解に辿り着いても、それがいつまでも正解であり続けるとも限らない。難しいよね」

 相手の気持ちどころか自分の気持ちだって、下手するとすぐ見失っちゃう――榛奈さんの、どこか独り言じみた呟きを聞きながら、私の視線は彼女の指から唇へと移る。

 榛奈さんの言う通りだ。正解なんてない。
 どんなに好きな人のことも、相手ときちんと話さない限りは分からないまま。ずっとずっと、その繰り返しだ。

「あたしは花束買いに来たときの能見しか見てないけど、あのときだってすごかったんだよ、馬鹿みたいに焦ってて……あんな能見、ほんと初めて見た」

 溶けかけの氷しか残っていないグラスをきつく握り締め、私はとうとう榛奈さんの瞳に焦点を合わせた。
 目が合って、ああ、この人初対面の私のこと、本気で心配してくれてるんだ、と肌で感じ取る。
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