旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
(どういう神経をしてるの……)

 今さら私になんの用だ。
 真夏に似つかわしくない寒気が、不穏に背を伝う。

 私の実家、斎賀家がこの男の再訪を許すとは思えない。
 ただ、ほとんど実家の前であるこんな場所で鉢合わせた以上、この男は斎賀家に用があって現れたと考えるのが自然だ。もしくは、実家の家族ではなく私個人に用があるのか。

 ……どの(つら)を下げて、と顔に嫌悪が滲んでしまいそうになる。
 厄介だ。地方へ飛ばされたはずの彼がこうして都内に戻ってきていたことさえ、私は一切知らなかった。両親は知っていたのだろうか。どちらにしろ、よくもまた斎賀家に近づこうなどと思えたものだ。

 夜分に不審者と鉢合わせた恐怖心は、かつての裏切り者への嫌悪感にあっさりと取って代わる。
 自分でも驚くほど冷めた目で比留川を一瞥してから、私は、まだ通話が繋がっているスマホに意識を向け直した。

「……すみません。後でかけ直しますね」

 通話越しに小声で囁く。『待て』と止める声が聞こえてきたけれど、半ば無理やり通話終了のボタンをタップし、バッグの中にスマホをしまう。
 この男とのやり取りなんて、たとえわずかだろうと和永さんには聞かれたくなかった。でも。
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