旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 家が目の前だから危機感が薄れていたけれど、この夜分だ。
 大声でも出さない限り、誰も私の危険に気づけない。

「あは。そんな冷たいこと言わないでよ、薫子ちゃん」
「……っ、寄らないでくださ、」
「頼れる人がいなくて困ってるんだよ、そう、薫子ちゃん以外に相談できないんだこんなこと」

 完全に元の馴れ馴れしい呼び方に戻っていて、私の話を聞く気なんかさらさらないんだ、とそれもまた今さら気づく。
 実家の前に立ち塞がるような位置に立つ比留川が、じりじりと歩み寄ってくる。正面の彼をどうにかしない限り、家に逃げ込むこともできない。
 母に、あるいは和永さんにもう一度電話をかけたくても、ギラついた目をした今の比留川がそれを容認するとは思えない。最悪、バッグごとスマホを取り上げられてしまいかねない。

(どうしよう……)

 ひゅる、と喉が鳴る。渇いて張りついて息まで詰まる。
 それなのに、この暑さの中にありながら、背を伝う悪寒は一向に引かない。

「ねぇ薫子ちゃん、助けてくれないかな。今日だけでもいいからさ、本当に困ってるんだ今」

 歩み寄られるたびに後ずさる、その繰り返しだ。これでは家に帰れない。
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