旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 比留川は今、確かに笑っている。それなのに目の奥はまったく笑っていない。
 気持ち悪かっただけの比留川のその目が、私の薄ら寒さを煽る。一度は気配の落ち着いた、車に乗せられる直前のギラついた目に、再びだんだん寄ってきているように見える。

 四年前の時点で私を自分より下に見ていたのだろうけれど、この手の、言うなれば〝後のなさ〟を比留川から感じ取るのは初めてだ。
 効きすぎて寒いくらいの冷房を、私の意向なんてもちろん確認することなくさらに下げた比留川は、なおも饒舌に続ける。

「ボク、逃げないといけないんだよね今。だから身代金取れそうな人質がほしくて」
「……お金……が必要なんですか?」
「そ。逃走資金っていうか」

 逃走。
 寒気に震えていた背が、ますますぎくりと固まる。

(どういうこと?)

 なにから逃げているというのか。
 まさか、と背が凍りつく。本当に犯罪絡みで警察に追われているとでも……そこまで落ちぶれていただなんて、と喉の奥が急激な渇きにぴりりと痛む。

「……なにをしたんですか、あなた」
「別に大したことじゃない」

 警戒を強めた私の問いかけには、答えになっていない答えしか返ってこない。
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