旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
「君はまさか、あれを俺が勝手に埋めて勝手に出すかもしれないと本気で思ってるのか? 昨晩あんなに激しく愛し合った後なのに?」
「いや思ってないです、ないですけど!」

 急に昨晩の話を引き合いに出され、特に『激しく愛し合った後』という直接的な言葉に気を取られた。
 見る間に顔が熱くなる。昨晩の詳細を、今この明るい部屋の中で改めて思い出すのは、正直かなり抵抗があった。
 黙り込んで俯いた私を横目に、和永さんは「じゃあ」と渋々彼の私室へ向かっていく。
 間を置かずリビングに戻ってきた彼の手には、例の書類が一枚。あの日挟んでおいたクリアファイルはもちろん、私が貼った付箋までそのままの状態で保管されていたらしい。

「あの、状態、すごくいいですね」
「何回破りかけたと思ってる……でも、俺が勝手に処分したとしても君の納得がなければなんの意味もないだろう、だから」

 ファイルから中身を取り出した和永さんの指が、折り畳まれた離婚届を広げてA3サイズに開く。そしておもむろに、その一端を私の指に挟ませた。

「今から一緒に破ろう。細切れに」

 軽やかに誘われ、は、と目を見開いて隣の彼を見つめる。
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