旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 母には紅茶を振る舞い、自分用には温めた麦茶を用意する。
 ようやくソファに腰を下ろしてひと息ついた頃、母が感極まった様子で口を開いた。

「ねぇ薫子」
「ん?」
「去年の……七月くらいだったかしらね。お母さん、電話で無神経な質問して、あなたに謝らせちゃったことがあったじゃない?」
「ああ、うん。あったかも」

 結婚記念日当日に、子供の話を訊かれたときだな、と頭の中で目測をつける。
 あの日の母には『もうその話はやめて』という牽制に聞こえていただろう。事実、わざと謝ったのだ。母にそういう話を自重してほしくて、私って性格が悪いな、と自己嫌悪を抱きながら、それでも言わずにはいられなかった。

「あの後、お母さん本気で反省したのよ。けどね、欲って本当に、次から次へと出てきちゃうものなんだなぁって」

 反省。やはり気にしていたらしい。
 確かにあれから母は、私が和永さんと喧嘩して実家に帰るまで、私に一度も電話をかけてこなかった。
 溜息交じりに、母は苦笑いを浮かべている。

「最初はね、あなたの花嫁姿を見て、これ以上の幸せはないって噛み締めてた。それが、今度はあなたが幸せに暮らせてるならそれ以上の幸せはないって思うようになってね」
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