旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
「うん」
「ちゃんと満ち足りてたはずなのに止まらないのよ。その次はね、やっぱり母親になったあなたを見てみたい、孫を抱いてみたいって思っちゃってねえ」

 しお、と表情をしぼませた母を、私は麦茶のコップを手に対面からじっと見つめる。
 当時を振り返っているらしい母の目元には、しょんぼりと皺が寄っていた。

「私ったら本当に欲望の塊だわ~って反省しきりよ。あなたにも嫌な思いをさせちゃって……駄目よね、きちんと自制しないと」
「うん……でも気持ちは分かるかも。人ってわりと皆そういうものじゃない?」

 母へのフォローのつもりで口にした言葉は、そのまま私に懐かしい感情を呼び起こさせる。

 私もそうだった。
 人は、基本的にどんどん欲が出る生き物なのだと思う。両親を安心させてあげられれば十分だと考えて結婚を選んで、それだけでいいと確かに思っていたのに、次第にもっともっととあれこれ欲が出てきた。結婚に夢を見られなくなっていた私でさえ。

 特に、和永さんへの恋心を自覚してからは顕著だった。
 好きだという気持ちがどんどん膨らんで、自制の心だけではたちまち抑えきれなくなっていって、それが怖かった。
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