旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
「ふふ。良かったです」

 笑ってしまった。
 今さら家族らしい会話をしているなんて、不思議な気分だったから。

「……昨日の分も手作りだったのか?」

 緩んだ顔のまま箸を動かしていた私に、和永さんはやがて遠慮がちに尋ねてきた。
 今そんなことを訊かれるとは予想していなかったせいで、箸を動かす手があからさまに固まってしまう。

 皿にかけたラップの上で弾けた昨晩の自分の涙が、不意に脳裏に蘇る。
 あのときに抱いていたぐちゃぐちゃな感情ごと、鮮明に。

「はい。食事の支度は自分でしたくて……好きなんです、そういうの」

 前は料理教室にも通ってたんですよ、とあくまでも自分が好きでやっているだけだと強調しつつ、なるべく明るい声で返した。過ぎった気持ちを表には出さず、かつ恩着せがましくない、恨みがましくもない調子で返せたと思う。

「……そうか」

 小さな声でそう返しただけで、和永さんは花束を差し出してきたときのように謝ったりはもうしなかった。
 昨日の夕食が普段より豪華だったことにも、家事の外注を減らしていることにも触れられなかった。それを彼なりの気遣いだと思い込みたくなるのだから、私は私でだいぶ重症だ。
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