旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
「あ……っ」

 びくりと背が震えた拍子に、声まで漏れてしまう。
 ちょうど洗っていた皿が、彼の手元から滑り落ちたらしい。自分の食器をシンクの横に置き、私は水の流れるシンクの中を覗き込んだ。泡と水に濡れたままの、真っぷたつに割れた白皿が目に飛び込んでくる。
 同時に、ばつの悪そうな低い声が耳に届いた。

「……悪い。手が滑った」
「い、いいえ。お怪我は……あ、血が」

 落とした皿を咄嗟に掴んだのか、和永さんの人差し指からは、うっすらと血が滲んでいる。
 私はといえば、怪我をした彼よりも慌ててしまっていた。あわあわとリビングへ引き返し、あまり使わない薬箱を手に、再びキッチンへ戻る。

「ええと、し、消毒とか、」
「いい。自分でやる、ありがとう」

 薬箱には消毒薬と絆創膏も入っていたはずだ。けれど、まだ濡れている大きな手を取ろうとしたところで遠慮がちに告げられ、私はようやく我に返った。
 確かに子供相手みたいな慌て方をしてしまった。「すみません」と手を引っ込めた私は、薬箱を和永さんに渡し、シンクは私が片づけておきますから、と彼をリビングに送る。
 割れた皿を、ゴム手袋をして集めて処分して、細かな破片も片づける。その作業をしながら私は確信していた。

 この人が過敏に反応したのは、〝離婚〟という私の言葉だ。
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