旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 能見(のうみ)和永さん、三十三歳。
 警視庁捜査二課所属、現在の役職は警視で、この春から警視正への昇進が決定済み。

 警察の内情には明るくない私でも、彼の年齢でその役職に就くのは普通無理なのではと理解できてしまう。
 叔父からは難関大の法学部卒だと聞いている。要はすさまじいエリートだ。

 能見さんは、八年前まで警視庁に勤めていた叔父の、当時の部下だったそうだ。
 ひと月前、庁内の行事に出席するため東京を訪れていた叔父は、たまたま彼と再会して話に花が咲いたらしい。話に花が……疑わしい。叔父はことあるごとに話を盛るタイプだから、大袈裟に言っている可能性が高い。
 三十歳を過ぎても独り身の警察官はそう多くないとも聞いている。そういう個人のプライベートに、酔った叔父は勢い任せに足を突っ込んだのではないかと思う。

『それで薫子を紹介したんだよ~』

 叔父の声が脳裏に蘇り、溜息が零れそうになる。
 あのときはさすがに『なんで!?』と電話越しに憤慨してしまった。身内とはいえ、私になんの断りもなくしでかしていいことではないと思ったからだ。
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