旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
「うん。お前はもう〝誠実さ〟だけじゃ奥さんとは向き合えねえと思うよ。お前が好きになっちゃってんだ、奥さんのこと」

 告げられた瞬間、飽和しかけていた頭に稲妻めいた衝撃が走った。

「俺が……薫子を好き……?」
「やっとお気づきになりましたか~~~」

 頬杖をついた織田原が「もしかしてお前初恋なんじゃね?」と愉快そうに笑っている。
 笑ってる場合か、と叫びたくなったが、笑っている場合ではないのは自分だけだと気づいてなんとか堪える。

(初恋、だと?)

 自分が? 薫子に?

 頭の奥がどくどくする。息も上がる。感情の動きが異様なほど忙しない。
 こんなことは過去に一度だってなかった。どうすればいい、と無意識のまま額に指を当てたそのとき、軽い調子に戻った織田原の声が耳に届く。

「まぁ薄々そんな気はしてたよ俺は。ていうか市条本部長ヤバいな、ここまで見越してお前に姪御さん紹介したってこと? ヒェ~未来でも見えてんのかよ、強すぎ~」

 織田原の軽口には「知らん」と短く返すだけで精一杯だ。
 頭が重い。離婚届を手渡されてからずっと抱えてきた頭痛とは種類の違う重苦しさがあった。

 妙に熱っぽい、長風呂にのぼせたときのような――もしやこれが〝人を好きになる〟という感覚なのか。
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