不器用なプロポーズ

彼との契約 ~二日目 目覚め~

そもそもね?

人間一人理解するのなんて一生かけても無理だと思う。

だけど七年一緒にいたのよ?
少しぐらいは判るようになると思わない?

それでも私には、本気でこの人のやる事なす事がわからなかった。

窓から差し込む白い光の筋が、朝が来た事を知らせてくれる。
見える景色は明らかに、スペシャルスイートなホテルの一室で。

体は今も上等な羽布団に包まれて、ほわほわとなんとも心地良い。

……背中にぴったりくっついてるある人物を除いては。

「……再現VTRか」

うんざりしながら自虐の言葉を吐いた。

朝の第一声がこれってどうなの。言いたくて言ってるわけじゃないけど。
この覚えのある状況。ここに来て初めて目が覚めた時も同じような状況だったっけ。

一つ違うのは最初の景色が社長の寝顔ってだけだろう。

って当たり前よね。昨日も社長と寝たんだもの。って違う違う。言い方おかしいし。
ほんと「眠った」だけだもの。寝れないって思ったけどまんまと寝てしまったわ。だって疲れてたもの。

まあいいわ。とにかく起きよう。顔洗ってお手入れしたいし。

そう思って、さっきからホールドされている誰かさんの腕を外そうと試みる。

が、外れない。

だーかーらーっ。どうして外れないのよこれ。

「社長、起きているなら離してくださいませんか」

職場の同僚達にはびびって逃げられた、最上級に冷ややかな声を上司に掛けてみる。
モーニングコールとしては最低な部類に入るだろう。
私を無理矢理拉致して再度秘書契約させた非常識男に、効くとは到底思わないけれど。

「……まだここにいろ」

返ってきた言葉に、軽くどこかが切れた。

「いい加減に! 人を抱き枕代わりにするのはやめてくださいっ! 女性には朝の支度というものがあるんです! 私の肌がボロボロになったらどうしてくれるんですかっ! ただでさえこの状況にストレス半端ないんですから!」

外出不可だし完全監禁状態だし。
その上休む事さえこの人と一緒なんだから、支度する時ぐらい自由にさせてほしい。

私の怒涛の訴えが功を奏したのかどうなのか、ホールドされていた腕がゆっくりと外された。

そのままぱっとシーツから抜け出て振り返ると、上半身を起こした社長の姿がそこにはあって。

って何で上裸なのよっ!!!

慌てて顔を背けるけれど、一度目に入ってしまったものは取り消しようが無く。

うあああ朝から何てモノ見せてくれるのっ。無駄に見た目は良い癖に眼鏡外してるからフルフェイスで丸見えなんだけどっ。

私は両手で顔を覆い、熱が集まるのをどうにか抑えた。

「どっどうして裸なんですか!」

裸族か!寝るとき裸族タイプだったの社長!
というか私あの状態のあの人に抱かれて寝てたのよね……?

考えると顔から火が出そうだった。

「安心しろ。下は履いてる」

当たり前だ! と言おうとした所で、三嶋社長はぱっとベッドから出てシャツを羽織った。
文句を言うタイミングを奪われて、私はがくっとうなだれる。

なんで朝からこんな疲れさせされるのかしら、私……。

「ダイニングルームに朝食を用意してもらっている。俺は先に行くから、出来次第書斎に来てくれ」

それだけ言って、彼は何事も無くベッドルームを後にした。

そういえば、朝食取らない人だったわね。
私としてはありえないけど。朝に栄養取らないのが一番体に悪いんだから。コーヒー一杯だけなんて不健康極まりないわ。一日の基本は朝食からよ。

でもそのおかげで、この気持ちを落ち着ける時間が出来そうだ。

一人取り残された私は、すごすごとパウダールームに向かったのだった。

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