次期ホテル王として戻ってきたイジワル幼馴染に溺愛されています


 彼の部屋を出て、私は一度身なりをしっかり整えようと、地下にあるロッカールームへ向かった。
 早朝シフトのスタッフに仕事を引き継ぐだけなので、あと二時間もしないうちに終業にはなるけれど、お客様の前に出るかもしれないことを思うと、最低限メイクと髪は整えておきたい。

 まだ動きが緩やかな地下を歩いていると、紫苑寺さんとすれ違った。
 彼女には職務的に当直がないため、出勤してきたばかりなのだろう。
 相変わらず、人の目を惹きつけるほどの美しさをしていた。

「おはようございます」
「……おはようございます」

 私と目が合うなり、彼女は目尻を釣り上げる。美人が凄むと恐ろしいもので、私は彼女に睨まれるたびに身がすくみそうだった。
 そうでなくても、今の彼女と私では身なりに差が出てしまう。
 私は乱れた髪をささっと手ぐしで整えると、頬にかかった髪を耳にかけた。

「あなた、随分服が乱れてるようだけど……スカーフは?」
「スカーフ……あっ!」

 指摘されて首元がやけにスッキリしていることに気付く。
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