次期ホテル王として戻ってきたイジワル幼馴染に溺愛されています
「あっ、柚希」
「なに?」
「ここ、ついてる」

 隣からスッと手が伸びてきて、彼が唇の端を指で拭っていく。その指をぺろりと舐めたのを見て、私は声にならない悲鳴を上げた。

「い、いま、舐めっ……」
「もったいないから」

 しれっと返されて、なんだか過剰に反応した自分が馬鹿みたいだ。
 付き合いたての初々しさなんて、とうの昔に過ぎ去ったと思っていたから、久しぶりの感覚にいまだ慣れない。
 私はぱくぱくと無心でケーキを食べると、彼に淹れてもらった紅茶に口をつけた。

「おいしい……。やっぱり淹れ方ひとつで変わるね」
「茶葉がいいのもあるけどね」

 ゆっくり紅茶を楽しみ、しっかりケーキまで完食したあとは、お皿をキッチンに下げる。
 皿とカップを洗いながら、そういえばこのあと何をするのか決めていなかったことに気付いた。

 動画配信サービスはひとつだけ契約しているから、映画を観ることはできる。
 というより、そもそも彼の都合を聞けていなかった。もしかしたら、そう長居せずに帰るかもしれない。
 私は部屋に戻ると、彼の横に座った。
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