次期ホテル王として戻ってきたイジワル幼馴染に溺愛されています
 司会による紹介を受けて、壇上にひとりの男性が立つ。特徴的な白髪と白ひげは見間違えるはずもない。数日前、彼の部屋の前で会った男性だった。

「皆さま、お集まりいただき、ありがとうございます。紹介に預かりました、広瀬寿史です」

 滑らかに挨拶がはじまり、次のロイヤル・ローズ東京の社長は達成さんになること、そしてゆくゆくはロイヤル・ローズ全体を統括する立場になることが告げられる。
 会長挨拶のあと、登壇した達成さんは別世界の人に見えた。キラキラして、眩しくて、とても自分の幼馴染とは思えない。

 彼は、私の幼馴染で、私の恋人なんだよ。と、周りに言っても、誰も信じないだろう。それぐらい、私と達成さんとでは住む世界が違っていた。

「ここで、本日二つの発表があります。まずひとつは、ロイヤル・ローズをより良くするための改修工事についてです。そしてもうひとつは、達成の婚約の話です」

 会長の言葉で、一気に会場がどよめきに包まれる。
 私は指先が冷えていくのを感じた。目の前がチカチカと明滅して、呼吸の感覚が短くなっていく。

 まさか、こうして大々的に婚約の発表されるとは思わなかった。壇上の袖には、紫苑寺さんの姿がある。
 きっと名前を呼ばれたら挨拶をするのだろう。そしたらもう、私の居場所はない。

 揺れてもいないのに、地面がぐにゃぐにゃと曲がる心地がした。
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