次期ホテル王として戻ってきたイジワル幼馴染に溺愛されています
 だとしても、だ。

 私の両親に挨拶まで済ませ、式場の手配をするためにホテルまでやってきたこのタイミングで破談にすることはないだろう。それならば、もっと早く私のことを手離してほしかった。

 ――浮気に気付かなかった私も悪いのかもしれないけれど……。それでもあんまりだ。

「だから、このあとの打ち合わせは断って欲しい。あと、その婚約指輪、返してくれ」
「そんなっ……!」
「だって、お前には必要ないだろ? これから俺は金が必要になるんだ。彼女のために新しい婚約指輪を買いに行かないとだし」

 俯き、何も言い返せないまま下唇を噛み締める私の左手を強引に掴み、彼が左手薬指から小さなダイヤが乗った婚約指輪を外していく。

 苛立ち、憎しみ。それ以上の悲しみと惨めさ。

 いろんな気持ちがないまぜになって、頭がおかしくなりそうだった。どんどん血の気が引いて、周りの音が遠ざかっていく。

「それじゃあ、俺はもう行くな」

 彼は私の薬指から外した婚約指輪をジャケットのポケットに入れると、こちらを気に掛けることもなく一人掛けのソファーから立ち上がった。

「あっ、そうそう。彼女にバレたらまずいからさ。連絡先、消すから。お前も消しといて」

 最後まで最低な言葉を吐いて、彼がラウンジから出ていく。
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