次期ホテル王として戻ってきたイジワル幼馴染に溺愛されています
「それこそ作戦のうちですよ。強い話題をぶつければ、あなたが惨めに婚約破棄された事実も打ち消されます」
「惨めって……! もう、そういうところ、昔から変わってない! だから私はたっちゃんのことっ」

 キライ、と言いかける前に、彼の指先が唇に触れる。それ以上は言うな、と言いたげな顔で首を横に振られた。

「……ごめんなさい。私のことを、考えてくれてのことだったのに」
「まぁ、僕のためでもありますけど。縁談対策と、他のスタッフから言い寄られないための対策です」

 彼は私の唇から指を離すと、頬の横に垂れていた髪を一房持ち上げて左耳に掛けた。そのとき、ほんのわずかに触れた指先がくすぐったくて身動ぎする。
 それを見て、彼は満足そうに笑った。

「ただ、柚希のことを本気で落とすつもりです。半端なことをしていては、演技だとバレてしまいますから」
「んっ……達成さん、くすぐったい……です」

 彼の手が離れることなく、薄い耳たぶに柔く爪を立てられる。かと思えばまあるく頬を撫でられた。

「俺は本気だよ。だから、柚希もちゃんと俺のことを見て」

 演技の割には真剣な表情で囁く達成さんに、不覚にも心臓がきゅんと疼く。

 ――これは演技。勘違いしちゃダメ。本気で好きになったら後悔する……。

 私は呪文のように何度も自分に言い聞かせると、いまいち掴みどころのない彼の目をじっと見つめ返した。
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