次期ホテル王として戻ってきたイジワル幼馴染に溺愛されています
 間違ってもお客様に威圧感を与えることは、あってはならない。
 コンシェルジュが二人で向かうことは稀なため、達成さんにはお客様が扉を開けたとしても見えない位置に立ってもらうことにした。

「板倉様、コンシェルジュの宮園です」

 チャイムを押し、ドアをノックした上で声を掛ける。すると、すぐに部屋の奥が騒がしくなり、扉が開いた。

「大変お待たせいたしました。ご要件をお伺いいたします」
「柚希さん、やっと会えた」

 まだ二十歳を過ぎてそこそこの青年が私を見てにっこりと笑う。

 板倉さんは、半年ほど前からVIPエリアの常連になったお客様だ。初めて彼の依頼を受けてからというもの、常に私を指名してくる。
 どうやらいたく私のことを気に入ってくれたようで、私がいるときは必ず名指しで依頼された。

「部屋の花の色を変えて欲しくてさぁ。あと、できれば柚希さんの連絡先を教えて欲しいんだけど」
「部屋の花の交換ですね。かしこまりました。連絡先はVIPカードの裏にございます」
「それはコンシェルジュ直通電話じゃん」
「生憎、プライベートな番号はどなた様にもお伝えできないことになっておりまして」

 深々と頭を下げつつも、内心ではまたかと嘆息する。

 本気なのか、それとも冗談なのか、板倉様はいつも私の連絡先を欲しがった。
 どんな要望でも叶えるコンシェルジュといえど、お客様と個人的な繋がりを持つことは許されない。連絡先の交換だけはできかねると伝えても、彼は何度も私に番号を聞いてくる。

 年も若く、長身でイケメン、少し軟派な印象を受けるものの、女性にはモテそうだ。こんなところで私をからかう暇があるのなら、他の女性にアプローチのひとつでもすればいいものを。

 そうは思っても、決して口には出せなかった。
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