次期ホテル王として戻ってきたイジワル幼馴染に溺愛されています
「花のお色や種類にご指定はありますか?」
「んー、柚希さんは何の花が欲しい?」

 体の前で組んでいた左手をするりと取られて、驚きのあまり肩を跳ね上げる。
 お客様に触れられたのは初めてで固まっていると、外側から大きく扉が開いた。

「お客様、当ホテルではスタッフとの触れ合いサービスは提供しておりません」
「ちょ、達成さん!?」
「は? あんた誰」
「宮園と同じここの従業員です。以後、お見知りおきを」

 達成さんが笑顔で私と板倉様の手を無理やり離す。
 板倉様はチッ、と聞こえるように舌打ちをすると、部屋の奥を指した。

「だったら早く花を持って行けよ」
「かしこまりました」
「柚希さん、花は柚希さんのオススメで。楽しみにしてるよ」

 達成さんと共に部屋の中へと入り、ダイニングテーブルの上に飾り付けていた花を回収する。
 板倉様は終始ニコニコしていたけれど、それは私に対してだけで、達成さんのことを見る目は冷たかった。

「花は後ほどお持ちしますね」
「うん、待ってるよ」
「では、失礼いたします」

 扉が閉まり、私たちは無言のままエレベーターへ向かう。
 やってきたエレベーターは空で、私はやっと緊張を解いた。
 そこでようやく私は花瓶を持つ達成さんに向き合う。
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