次期ホテル王として戻ってきたイジワル幼馴染に溺愛されています
「達成さん。私、さっき言いましたよね? お客様から見えない位置に立つように、と」
「えぇ、ですから立っていたでしょう?」
「でも、途中で乱入してきたじゃないですか!」
「あれは従業員を守るためです」
「あれくらい、平気です。板倉様は常連のお客様です。気分を損ねられたら、もう二度とホテルを利用されないかもしれません」
「それでいいのでは?」
「はい……?」

 彼の口からとんでもない言葉が出てきて、思わず目を吊り上げてしまう。

 達成さんは口元に笑みをたたえながらも、こちらににじり寄ってきた。じわじわと近づかれ、ついには花瓶を持っていない方の手で顎先を持ち上げられる。
 狭い箱の中、完全に逃げ場などなかった。

「あなた、口説かれていたんですよ?」
「そんなことは……」
「それとも、誰にでも口説かれたらホイホイついていくような軽い思想をお待ちで?」
「なっ……!」

 失礼な物言いに、カッと頭に血が上る。そんなことはない、と否定するよりも前に頬を撫でられた。

「あなたはいま、仮とはいえ僕の恋人です」

 頬を撫でていた指先が、ゆっくりと唇の上を滑っていく。熱っぽい目で見つめられて、息が止まりそうになった。

「だから、誰にも触れさせないで」
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