次期ホテル王として戻ってきたイジワル幼馴染に溺愛されています


 ――――ジリリリリ

 コンシェルジュカウンターの横に備え付けている電話からコールが鳴る。
 私はハッとして俯きかけていた視線を上げると、受話器を取った。

「はい、コンシェルジュの宮園です」

 電話の向こうの声に耳を澄ませ、お客様からの要望を手元のメモ帳に書き記す。
 部屋が寒いので、ブランケットを持ってきてほしいとのことだった。
 すぐさまリネン担当者に電話を繋ぎ、部屋番号を伝えてブランケットを準備してもらう。私が後ほど地下まで取りに行くことを伝えて受話器を置いたときだった。
 少し前から交代でやってきていたらしい先輩に、宮園さん、と棘のある声で名前を呼ばれた。

「あなた、さっきからぼんやりしすぎです。コールは三秒以内にと習ったでしょう」
「も、申し訳ございません」
「恋にうつつを抜かしているのかもしれないれど、しっかりして」
「別にそういうつもりでは……」

 咄嗟に反論しかけて、慌てて口をつぐむ。だけど、口から出た言葉を回収できるはずもなく。
 先輩は私の抵抗とも捉えられる言葉を聞いて、眉を吊り上げた。

「そんなつもりじゃない……? 十分、浮かれてるでしょ。婚約破棄されて悲しんでいるかと思いきや、数日後には新たな恋人ができてるわけだもの。それもうちの社長なんだから。一体、どうやって社長を落としたわけ? もしかして、浮気してたとか? ほんと信じられないわ。社長も可哀想よ、あなたみたいなのに引っ掛かって」
「…………」

 断じて浮気はしていないし、婚約破棄されたことは今も心の傷になっている。
 達成さんと恋人同士だと言っても、幼馴染のよしみ、かつ成り行きでそういうことになってしまっただけだ。それに、あくまで私は仮の恋人。みんなが思い描くような関係ではない。
 だけど、それを言うわけにもいかなかった。

「……申し訳ございません。次からは気を付けます」

 私は感情を押し殺し、深々と頭を下げて裏に下がる。
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