次期ホテル王として戻ってきたイジワル幼馴染に溺愛されています
 私は、小野瀬という名前を聞いて、頭から血の気が引いた。
 彼は、VIP会員であるもののかなり"困った"お客様だ。どのコンシェルジュが対応しても、手を焼くことが多い。
 すべてのコンシェルジュに対して当たりが強く、誰のことも好いていない小野瀬様ではあるが、私は彼から特に嫌われていた。

 別に粗相はしていないが、新人であるというだけで嫌われているのだ。

「俺に新人を寄越すのか! こんな経験の浅い奴を寄越すなんて失礼だ!」

 と、過去に怒鳴られたこともある。おまけに酒癖も悪く、この時間であれば恐らく泥酔しているに違いない。
 いま私が向かえば、大ごとになるのは火を見るより明らかだった。

 ――でも、すぐに行かないと……。

 スカーフもまだ出来上がっていないし、本来の勤怠時間よりも一時間近く早いけれど、行けと言われた以上は行かざるを得ない。
 仕方なくエレベーターに乗り込んだら、たまたま乗り合わせたスタッフに笑われた。

「あなた、これから例のお客様のところへ行くそうじゃない。せいぜい、お客様を怒らせないように」

 そう言って、スタッフがエレベーターを降りていく。
 きっと、これも嫌がらせのひとつなのだろう。私は覚悟を決めると、指定された部屋まで向かい、チャイムを押した。
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