次期ホテル王として戻ってきたイジワル幼馴染に溺愛されています
 ずっと、二十五階はホテルを経営する一族か、それに準ずる賓客にしか開放していないと聞かされていたけれど、まさか中がここまで豪華になっているとは、思ってもみなかった。
 ここに足を踏み入れられるのは、清掃スタッフの中でも限られた者のみだろう。
 彼が来るまで使われていたのかも怪しいのに、部屋は隅々まで磨かれていた。

「さっきからずっと部屋を眺めてますが……、そんなにこの部屋が珍しいですか?」
「ご、ごめんなさい……。来ることがないから、つい……」
「ここは僕たち家族か、賓客しか通しませんからね。僕も仮住まいとして使用していて、いずれは出るつもりです」
「そうなの?」
「えぇ。ほとんど使いもしないのに維持するなんてもったいない。僕は無駄を省きたい主義なので。それこそ、改修工事の際には、このエリアにも手を加えようかと」

 そう語る彼の顔は、ロイヤル・ローズの経営をよりよいものにしようと考える社長の顔だった。

「じゃあ、部屋は探してるの?」
「まだです。ひとりでは考えられないですし」

 彼が立ち上がって、キッチンの奥にある冷蔵庫の方へ向かう。
 戻ってきた彼の手にあったのは、よく冷やされたペリエの瓶と綺麗に磨き上げられた二つのグラスだった。

「あなたと一緒に住むかもしれないでしょう?」

 彼が瓶の蓋を開け、静かにペリエをグラスに注ぐ。
 つい、美しい所作に見とれてしまったけれど、彼の言葉を頭の中で反芻して、私は素っ頓狂な声を上げた。
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