次期ホテル王として戻ってきたイジワル幼馴染に溺愛されています
 彼女に会うために俺は、見た目も喋り方も変えた。少しでも、印象をよく見せようと。
 そうして一足早くホテルにたどり着いた先で、泣きじゃくる彼女を見つけた。
 最初はただ、泣いている人を放っておけないという理由で近付いたが、一目見てすぐに柚希だと分かった。

 泣いている理由が知りたい。俺なら絶対、泣かせたりしないのに。

 そう思って声を掛けるも、彼女から泣いている理由を聞いて絶望した。それと同時に喜びもした。

 婚約破棄されたのであれば、それを利用しない手はない、と。

 それからの自分は、自分でも引くぐらい強引だったと思う。仮の恋人などと言って、彼女を縛り付けて。
 でも、本当に縁談に困っているのは事実だったし、遅かれ早かれ彼女がフリーなのであれば、自分のものにしたいという気持ちがあった。
 ただ、優しくなりきれないのは自分の性格と、自分がいない間に誰かのものになりそうだった彼女に対しての、ちょっとした当てつけがあるからだ。
 それでも彼女を想う気持ちは本物だ。

 ――だからこそ、彼女に危害を加える奴等は許せない。

 彼女に暴力をふるった客はブラックリストに入れ、東京問わず全ホテルに足を踏み入れさせないのはもちろんのこと、スタッフにも目を光らせておかなければならない。

 接触禁止にしているはずの客に彼女を引き合わせたのだ。それに、クリーニング担当から聞いたスカーフの話。彼女のことを噂するスタッフたちな話。

 彼女が何らかのトラブルに巻き込まれているのは明らかだった。

「絶対に許さない」

 どんなことをしてでも彼女を守る。
 そして、絶対に本気にさせてみせる。

 俺は深く深く息を吐き出すと、彼女が出ていった扉を見つめた。
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