次期ホテル王として戻ってきたイジワル幼馴染に溺愛されています
 彼女が部屋から出てきただけでも驚きだった。それなのに、部屋の内装を変えたい、だなんて。
 そもそもこの部屋は私たちではどうすることもできない。家具も内装もすべて特別仕様で、歴代の社長たちが自由にレイアウトしたものだ。

 そもそも、今までだって清掃係しか入ったことがないようなエリアである。コンシェルジュが呼ばれることだってほぼなかったのだ。

 だから、私は返答に詰まってしまった。

「えっと……」
「ほら、早くきびきび動いてくださいな。今日中には変えたいの」
「今日中ですか……!?」

 あり得ない申し出に目眩がする。
 なんて返そうか考えていると、部屋の奥から焦った様子の達成さんが出てきた。

 いつもとは違い、髪はボサボサで、服も乱れている。この姿は、ホテルで一夜を過ごしたときと同じだ。
 二人で一夜を明かした日と、同じ。

「紫苑寺さん、勝手なことばかりしないでいただけますか?」
「どうして? ここが今の仮の住まいなんでしょう? フィアンセの私も同じ場所で寝食をするものでは?」
「まず、その話は認めていません。とにかく、今日は帰ってください」
「ひどいわ。私はせっかく」
「帰ってください」

 取り付く島もないとはこのことだろう。達成さんがぴしゃりと言い放ち、冷たい目で彼女を見下ろす。表情が抜け落ちた達成さんは、私から見てゾッとするほどに恐ろしかった。

「……分かりました。今日のところはこれで」

 彼の剣呑な雰囲気にあてられたのか、彼女がすごすごと引き下がっていく。
 私も部屋を出ようと達成さんに頭を下げたときだった。紫苑寺さんが出たのと同時に、中へと引き込まれた。
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