愛とプライドとバベルの塔
「課長。」
わたしは、涙ながらに蟹江課長を呼んだ。
「何だい?」
「わたしは、竹内主任とは不倫関係なんてありません。わたしの頑張りを認めてくださって、仕事を教えてくれて、職務Ⅱの試験を受けてみないか?と言ってくださって、来月の試験に向けて勉強にも付き合ってくださっています。凄くお世話になっていて、竹内主任には感謝しています。」
わたしがそう言うと、蟹江課長は「あぁ、そのことについても言っていたよ。」と言い出した。
「竹内くん、小田桐さんにだけ特別扱いしてるんだって?南田さんが不満を漏らしていたよ。わたしには仕事を教えてくれないのにって。」
蟹江課長がそう言うと、竹内主任は一度俯き溜息をつくと、「蟹江課長は、それを聞いてどう思ったんですか?」と訊いた。
「いやぁ、特別扱いは良くないよ?竹内くん。主任なんだから、みんな平等に接してもらわないと。」
「お言葉ですが、蟹江課長。南田さんは、ここで働き始めてから何年経つか知ってますか?」
「えっ、、、何年だ?」
「確か18年なんですよ。それで、小田桐さんはまだ入社して七ヵ月程。一年経ってないんですよ?まだ入社して一年経ってない小田桐さんに仕事を教えるのは、当然じゃないですか?それが特別扱いなんですか?逆に18年も居て、まだ教えてもらわないといけない仕事がある南田さんの方に問題があると思いますけどね。」
いつも能天気で、この人大丈夫かな?なんて思ってしまうような竹内主任の言葉は何も間違っていなくて、それに対して蟹江課長は何も言い返すことが出来ていなかった。
「それから、蟹江課長。今、"みんな平等に"とおっしゃいましたよね?平等に出来てないのは、蟹江課長の方ですよ?蟹江課長、南田さんだけじゃなく、HBCの佐藤さんにも特別扱いしてますよね?HBCの方たちから不満が出てるのご存知ないんですか?」
竹内主任にそう言われ、目を泳がせる蟹江課長。
しかし、蟹江課長は「今は、そんな話をしていない。小田桐さんの話をしているんだ。」と強気で言った。
「ご自分の問題は、棚に上げるんですね。」
「いやぁ、竹内くんも言うようになったなぁ。さすがわたしの右手だ!とにかく、小田桐さんの異動は決まったことだから、もうすぐ辞令が出るよ。」
蟹江課長がそう言うと、竹内主任は「えっ?!もう決まった?!もう人事に話が行ってるんですか?!」と前のめりになり、強い口調で言った。