愛とプライドとバベルの塔

わたしも阿久津さんについて行き、三階のバックルームへと辿り着いた。

すると、バックルームにあるプライスカードが印刷出来る機械が置いてあるテーブル付近に、竹内主任と南田さんが一緒にいるのが見えた。

南田さんは相変わらず竹内主任の前では、楽しそうにニコニコしていて、しかし竹内主任は深刻そうな表情を浮かべていた。

それを見て阿久津さんは足を止め、小さな声で「あの猫被りババアめ。」と呟き、それから南田さんを睨み付けるように歩き出した。

わたしたちが近付いて行くと、先にこちらに気付いたのは南田さんの方だった。

「あら、阿久津くん。お疲れ様。」

南田さんはニコニコしながら阿久津さんにそう言い、まるでわたしが透明人間で見えていないような態度を取った。

「あのぉ、挨拶は俺にだけですか?小田桐さんも居ますけど。」

阿久津さんがそう言ってくれると、わざとらしく覗くような素振りをして「あら、小田桐さんも居たのね。見えなかった。」と悪怯れる様子もなく言ったのだった。

「主任、何でこんな人と一緒に居るんですか?」

ずっと黙ったままでいる竹内主任に阿久津さんがそう言うと、南田さんはまるで漫画にでも出てくるようなブリっ子の手をして「阿久津くん酷い〜!"こんな人"だなんて!」と言った。

しかし、阿久津さんは南田さんを無視して竹内主任に向け「主任、聞いてます?」と言った。

すると、竹内主任はやっと口を開いた。

「今、小田桐さんの話してた。」
「小田桐さん、マジで西店に異動になっちゃったじゃないですか!しかも、HFに!何ですかあれ!意味分かんないですよ!」
「だから、俺は南田さんと話してた。蟹江課長とどんな話をしたのか。」

そう言う竹内主任の横では、"わたしは何も悪くない!"とでも言い出そうな表情の南田さんが意地悪い笑みを浮かべていたのだ。

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