キスしたら、彼の本音がうるさい。
◇神谷瑛翔◇

──また、やっちまった。

別に、何をしたってわけでもないのに、顔が火照って仕方なかった。
プリントを拾ったくらいで動揺してる自分が、いちばん分からない。

普通に返しただけなのに。
なのに、指先がやけにあったかくて、距離が近すぎたせいか、頭の中が妙にうるさかった。

浅見月菜。

名前は、昨日初めて覚えた。

あのとき、ふらついた彼女を咄嗟に支えたあの一瞬。
たぶん、あれで全部が変わった。

今日、また隣に座ってきて。
言葉も、声も、小さくて。
でも、ノート──じゃなくて、自分でまとめたメモを見せてくれるって言ってくれた。

それだけのことが、どうしてこんなに心に残るのか、自分でもよくわからない。
あいつの文字、きれいだった。

まとめ方も丁寧で、優しい性格がにじみ出てた。
俺が言わなくても、ちゃんとそういうとこ伝わるんだなって思った。

……てか、何だよ、“また会えるといいな”って。

心の中でつぶやいてるだけなのに、なんか、期待してるみたいで気持ち悪い。
でも、あいつといる時間は、なんか、息がしやすかった。

口下手な俺でも、沈黙が苦じゃないって思えるの、珍しい。
あいつが笑うと、なんか、嬉しい。
それだけで、今日一日分の疲れがどっか飛んでった気がした。

……やっぱ、俺、もう気づいてるんだろうな。

このまま、もっと知りたくなるんだろうな。

彼女の声じゃなくて──
彼女の“心”を、もっと。

< 10 / 69 >

この作品をシェア

pagetop