キスしたら、彼の本音がうるさい。
好きって言葉にできない夜に
また、今日もここに来てしまった。
瑛翔の部屋。
静かで、あたたかくて、でもどこか苦しくなる場所。
こたつに潜りながら、私はマグカップを両手で包んでいた。
紅茶の香りがほんのりと鼻をくすぐる。
──だけど、それでも落ち着かない。
すぐ近くにいるのに、なにを考えているのか、わからなくなる。
目を見ても、言葉を交わしても。
あの“声”は、もうどこにもない。
本当は、聞こえなくなったあの日から、ずっとこわかった。
瑛翔の部屋はあたたかい。
でも、私の心は、少しずつ冷えていく気がした。
「……もう少しだけ、このままいてもいい?」
そう言ったのは私なのに、
彼の「いいよ」の声が、少し遠く感じた。
カップに残った紅茶はもうぬるくて、
それでも私はそれを手放せなかった。
まるで、冷えた心をなんとかごまかすように。