隣の部署の佐藤さんには秘密がある
 晃太はさきを見つめた。さきはずっと俯いたままだ。

「さきはどう思ってるの?本当に別れたいと思ってる?」
「はい……」

「え~そこは別れたくないって言うとこじゃないの?」

「磯山さんから話を聞いた時は驚きました……急に婚約者を選ぶから別れてくれなんて言われてショックでしたよ?でもよく考えたらそうですよね……佐藤さんは水伊勢家のご子息なんですから……然るべき相手と結婚するべきなんです……」
「俺は佐藤晃太として生きていくって言ったじゃん。」

「……今はどこを見てもKOTAの写真でいっぱいです。私にKOTAの彼女なんて無理ですよ。KOTAの彼女はもっと見た目が良くて……それこそ、Akaneみたいな彼女じゃないといけないと思います……」

「あーあ、モデルなんてやらなきゃよかった。」
「そんなことありません。遅かれ早かれやることになったと思います。私、別れてもちゃんと応援はします。佐藤さんが一番カッコいいって思ってるのは本当ですから……頑張ってくださいね……」

 晃太はふーっと息を吐いた。

「なんか居心地良すぎて居座っちゃいそうだから帰るね。また連絡する。」
「……しなくていいです。別れたんですから。」
「別れてない。まだ彼女だからね。じゃあね~!」

 明るく笑いながらさきの部屋を出た晃太は玄関の扉に寄り掛かった。

「なんなんだよ……」

 部屋の中からはさきのすすり泣く声が聞こえてくる。別れたいとか然るべき相手と結婚すべきなんて言いながら、さきはずっと泣いていた。言葉と行動がまるで合っていない。まだ一緒にいたかった──晃太は涙を拭ってアパートの階段を下りていった。
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