二人で恋を始めませんか?
「それでは白瀬部長、我がマーケティング戦略部にようこそ。乾杯!」
小澤の音頭で、かんぱーい!と賑やかに皆でグラスを掲げる。
広い和室で優樹を囲み、早速ワイワイと盛り上がった。
「白瀬部長! ご挨拶してもいいですか?」
「俺も! 白瀬部長の武勇伝を聞いてみたくて」
「いつか直接お話ししたいって、ずっと思ってたんですよね」
「白瀬さんは、俺達コンサルの憧れの存在ですから」
若い男性社員が次々と優樹の元へやって来る。
なみなみとビールを注がれ、質問攻めにされた。
「私もご挨拶いいですかー? 白瀬部長」
ようやく少し落ち着いた頃、同期の華恵がからかい口調で隣に座った。
「なんだ、小林か」
「なんだとは何よ? 同じ部署なのに、海外事業課の課長にはご興味ないですか?」
「いや、仕事では助けてもらうことになる。よろしく」
「白瀬くんなら、私の手助けなんて必要ないでしょ? 海外企業に関しては私より詳しいくらいだもん」
「そんなことないよ。けど、小澤もいるから」
周りを気にして小声で呟く。
小澤と華恵が入社してすぐにつき合い始め、そろそろ結婚する予定でいることは、同期の間では周知の事実だった。
華恵は、ゆるくパーマをかけたロングの髪をさらりと揺らして笑う。
「ふふっ。もしかして白瀬くん、気を遣ってくれてるの? 私に話しかけないようにって」
「それは、まあ。あいつからしたら、気分よくないだろうし」
「白瀬くんでもそんなこと思うんだ。プライベートと仕事はきっちり分けて考えてるのかと思ってた」
「それはもちろん。でも自分以外の人に関しては違う」
「へえー、なんか意外」
華恵は頬杖をついて楽しそうにグラスを傾け、カランと氷を鳴らした。
「それより、いいのか? 小澤のやつ、女子に囲まれてるぞ」
離れた席にいる小澤に視線を促す。
「ん? もちろん、気にしないわよ。私もプライベートと仕事はきちんと分けてるつもり。ま、このあと私のマンションに来てくれるしね。そこでたっぷり愛してもらいます」
思わずゴホッとビールにむせると、華恵はおかしそうに笑った。
「やだ! 白瀬くんたら、どこまで硬派なのよ。私達、もう30よ? ウブな女の子みたいな反応しないでよ」
「そんなつもりは……」
「じゃあさ、誰かいい人出来たの?」
「いや」
その時、後ろのテーブルから「茉莉花、優くんは元気ー?」という会話が聞こえてきて、そっと視線を動かす。
若い女の子たちが茉莉花を囲んで身を乗り出していた。
「ん? 白瀬くん、茉莉花ちゃんのことが気になるの?」
「別にそういう訳じゃない」
「そっか。まあ、茉莉花ちゃんには優くんっていう恋人がいるらしいからね。って、やだ! 白瀬くんも『優くん』じゃないの」
「しっ! 小林、声が大きい」
「だっておかしいんだもん。あー、茉莉花ちゃんの優くんが白瀬くんだったらよかったのにな」
「小林、誰かに聞かれたらどうする。ほら、もう小澤のところへ行け」
はーい、とグラスを手に立ち上がった華恵を見送っていると、同じように視線を送っている茉莉花に気づいた。
(ん? 清水さん、小林と小澤を気にしている?)
そしてふと思い出した。
茉莉花は小澤が話しかけるといつも、緊張の面持ちで頬を赤くすることを。
(もしかして彼女、小澤のことが好きなのか? いや、彼女には優くんという恋人がいるはず)
だが、小澤と華恵に目をやってからうつむく茉莉花の様子は、見ているだけでこちらまで胸が切なくなる。
(恋人がいても、小澤に惹かれているのだとしたら? いやでも、あのメモ帳に恋人のことを書き記すくらいだ。きっと恋人のことを大切に想っているはず)
それならいったい?
もはや何がなんだか分からなくなる。
酒のせいか?と思いながら、優樹は考えを振り切るようにビールをゴクゴクと飲み干した。
小澤の音頭で、かんぱーい!と賑やかに皆でグラスを掲げる。
広い和室で優樹を囲み、早速ワイワイと盛り上がった。
「白瀬部長! ご挨拶してもいいですか?」
「俺も! 白瀬部長の武勇伝を聞いてみたくて」
「いつか直接お話ししたいって、ずっと思ってたんですよね」
「白瀬さんは、俺達コンサルの憧れの存在ですから」
若い男性社員が次々と優樹の元へやって来る。
なみなみとビールを注がれ、質問攻めにされた。
「私もご挨拶いいですかー? 白瀬部長」
ようやく少し落ち着いた頃、同期の華恵がからかい口調で隣に座った。
「なんだ、小林か」
「なんだとは何よ? 同じ部署なのに、海外事業課の課長にはご興味ないですか?」
「いや、仕事では助けてもらうことになる。よろしく」
「白瀬くんなら、私の手助けなんて必要ないでしょ? 海外企業に関しては私より詳しいくらいだもん」
「そんなことないよ。けど、小澤もいるから」
周りを気にして小声で呟く。
小澤と華恵が入社してすぐにつき合い始め、そろそろ結婚する予定でいることは、同期の間では周知の事実だった。
華恵は、ゆるくパーマをかけたロングの髪をさらりと揺らして笑う。
「ふふっ。もしかして白瀬くん、気を遣ってくれてるの? 私に話しかけないようにって」
「それは、まあ。あいつからしたら、気分よくないだろうし」
「白瀬くんでもそんなこと思うんだ。プライベートと仕事はきっちり分けて考えてるのかと思ってた」
「それはもちろん。でも自分以外の人に関しては違う」
「へえー、なんか意外」
華恵は頬杖をついて楽しそうにグラスを傾け、カランと氷を鳴らした。
「それより、いいのか? 小澤のやつ、女子に囲まれてるぞ」
離れた席にいる小澤に視線を促す。
「ん? もちろん、気にしないわよ。私もプライベートと仕事はきちんと分けてるつもり。ま、このあと私のマンションに来てくれるしね。そこでたっぷり愛してもらいます」
思わずゴホッとビールにむせると、華恵はおかしそうに笑った。
「やだ! 白瀬くんたら、どこまで硬派なのよ。私達、もう30よ? ウブな女の子みたいな反応しないでよ」
「そんなつもりは……」
「じゃあさ、誰かいい人出来たの?」
「いや」
その時、後ろのテーブルから「茉莉花、優くんは元気ー?」という会話が聞こえてきて、そっと視線を動かす。
若い女の子たちが茉莉花を囲んで身を乗り出していた。
「ん? 白瀬くん、茉莉花ちゃんのことが気になるの?」
「別にそういう訳じゃない」
「そっか。まあ、茉莉花ちゃんには優くんっていう恋人がいるらしいからね。って、やだ! 白瀬くんも『優くん』じゃないの」
「しっ! 小林、声が大きい」
「だっておかしいんだもん。あー、茉莉花ちゃんの優くんが白瀬くんだったらよかったのにな」
「小林、誰かに聞かれたらどうする。ほら、もう小澤のところへ行け」
はーい、とグラスを手に立ち上がった華恵を見送っていると、同じように視線を送っている茉莉花に気づいた。
(ん? 清水さん、小林と小澤を気にしている?)
そしてふと思い出した。
茉莉花は小澤が話しかけるといつも、緊張の面持ちで頬を赤くすることを。
(もしかして彼女、小澤のことが好きなのか? いや、彼女には優くんという恋人がいるはず)
だが、小澤と華恵に目をやってからうつむく茉莉花の様子は、見ているだけでこちらまで胸が切なくなる。
(恋人がいても、小澤に惹かれているのだとしたら? いやでも、あのメモ帳に恋人のことを書き記すくらいだ。きっと恋人のことを大切に想っているはず)
それならいったい?
もはや何がなんだか分からなくなる。
酒のせいか?と思いながら、優樹は考えを振り切るようにビールをゴクゴクと飲み干した。