二人で恋を始めませんか?
カリスマ講師の研修
「ではこれより、コンサルティング研修を始めます。あくまで私個人の考えでレクチャーするものなので、気負わず取り組んでほしい」

会議室に集まった茉莉花や沙和たち若手社員を、優樹はぐるりと見渡す。

茉莉花と面談をした2週間後。
優樹はメールで希望者を募り、コンサルタントを目指す社員を集めて研修を行うことにした。

「架空の企業から次のような相談を受けたとして、これから実際にコンサルティングしていく。某ファミリーレストランの売上が、3年間で15%減少している。何が原因かを分析し、どうすれば改善出来るかを考え、クライアントに提案する。各自でレポートにまとめて後日提出してほしい」
「はい」

皆は返事をするものの、何から取り組めばいいのかと戸惑いを隠せない。
それはそうだろう。
すぐにこなせれば、研修を受ける必要もない。

優樹はマーカーを手にホワイトボードの前に立つ。

「では、清水さん。君ならまずどんな原因を考える? 仮説を立ててみて」

はい、と茉莉花が立ち上がる。

「まずは、客層の変化があるかどうかに注目します。例えば、休日の家族連れが減ったのか、それとも平日の学生や女性グループが減ったのか。あるいはメインの客層が年配の方に移ったとか。お店の立地や周りの環境を鑑みて分析します。それにより見えてくる客層に合わせて、メニューを刷新したり価格を見直すことを検討します」
「うん、いいな」

優樹はホワイトボードに茉莉花の発言を書き留めていく。

「入り口としてはそれでいい。ここからクライアントに納得していただけるように、深く掘り下げて新たな解決案を見出さなければならない。感覚や思いつきではなく、論理的に分析する必要がある。そこで使うのが、フレームワークだ。まあ簡単に言うと、型とか法則みたいなものかな」

優樹がホワイトボードにマーカーを走らせると、皆も熱心にノートに書き写し始めた。

3C分析
・Customer(顧客)
・Company(自社)
・Competitor(競合)

「今日はこの3Cを使って分析してみよう。まずはCustomer(顧客)から。ライフスタイルが変化して、外食よりもテイクアウトやデリバリーを利用する人が増えたのかもしれない。SNS映えしないメニューで若者が離れたり、年配の方が高カロリーのメニューを敬遠して利用しなくなった、なども考えられる。次はCompany(自社)の観点から」

・メニューがマンネリ化
・店舗が古くなり、デジタル対応も遅れていて快適でない
・従業員のサービスの質が低下

サラサラとホワイトボードに書きながら、優樹は説明を続ける。

「最後にCompetitor(競合)の観点から。近隣のコンビニやスーパーで売られている弁当のクオリティが向上、あるいは安価で魅力的なメニューのチェーン店や、居心地のよいカフェに客が流れていく、なども考えられる。そうすると、この架空のファミリーレストランの売上減少の背景には、顧客のニーズ変化に対応出来ず、自社の強みを活かせないまま、競合の魅力が増している、という構造が見えてくる。ごちゃついた頭の中をスッキリと分かりやすくするんだ」

マーカーを置くと、優樹は皆に向き直った。

「仮説を踏まえてデータや資料を作成し、次回プレゼンしてみてほしい。何かあればその都度私に聞きに来てくれ。いつでも声をかけてくれて構わない」
「はい」
「では今日のところはこれで」
「ありがとうございました」

皆は優樹に挨拶して部屋をあとにする。
茉莉花も筆記用具をまとめて立ち上がった。
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